大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和32年(ワ)8689号 判決 1958年10月03日

原告 株式会社日本相互銀行

被告 国

主文

被告は原告相互銀行に対し、一、二一八、〇三四円及び、これに対する、昭和三二年一一月二日から支払ずみに至る迄、年五分の金員の支払をせよ。

原告相互銀行のその余の請求を、棄却する。

訴訟費用は、被告の負担とする。

この判決は、原告相互銀行勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実

原告相互銀行(以下原告という)訴訟代理人は、「被告は原告に対し、一、二八〇、〇五〇円、及びこれに対する、昭和三二年一一月二日から、支払ずみに至る迄、年五分の金員の支払をせよ。訴訟費用は、被告の負担とする」との判決、及び仮執行の宣言を求め、その請求の原因として

一、原告は、昭和二八年四月二九日付根抵当権設定契約により、訴外東邦通商株式会社(以下東邦通商という)に対し、将来、相互掛金契約無尽契約による、給付又は貸付手形、貸付手形割引その他の方法により、債権元本極度額五〇〇万円を、利息年一割二分、遅延損害金百円につき日歩五銭の定めで、貸与するという消費貸借、訴外岩田チヨをして東邦通商の為、同人所有の東京都新宿区新宿二丁目一八番の一、家屋番号同町一八番の一五、木造亜鉛メツキ鋼板瓦交葺居宅兼店舗一棟、建坪四〇坪八合、二階二七坪六合八勺(以下本件建物という)につき、第一順位の根抵当権を設定させる旨の契約を結び、翌三〇日、東京法務局中野出張所受付第五八八五号を以て、その旨の根抵当権設定登記を経た。

二、そこで原告は東邦通商に対し

(一)  昭和二八年四月二七日五〇万円

(二)  同年同月三〇日   五〇万円

(三)  同年同月三〇日  二〇〇万円

(四)  同年五月一五日  三〇〇万円

(五)  同年同月二六日   五〇万円

合計六五〇万円を貸与したところ、東邦通商は同年五月二六日(一)の貸金を弁済したので、原告は昭和二八年九月二九日(原告の決算期)現在に於て、東邦通商に対し、貸金元本六〇〇万円及び、内金三〇〇万円に対する、同年五月一日から同年九月末日迄五カ月分、一カ月一分の利息一五万円、合計六一五万円の債権を有した。

一方東邦通商は、昭和二八年九月二九日迄に、原告に対し、

相互掛金契約松一〇〇-二、第四五号ないし第五四号の掛金合計七五万円

同 松一〇〇-三、第一二八号ないし第一三二号の掛金合計二五万円

第二六回定期預金三〇〇万円

以上合計四〇〇万円の反対債権をもつていたので、同年同月同日、当事者双方合意の上、これを(二)(三)(五)の貸金元本合計三〇〇万円、及び右利息一五万円、及び(四)の貸金元本の内、八五万円と、対当額につき相殺したので、残元金は(四)の二一五万円となつた。

東邦通商は原告に対し

昭和二九年一月三〇日 三〇万円

同年二月二七日 一〇万円

同年三月三一日 四五万円

同年四月三〇日 三〇万円

以上合計一一五万円を、右残元本に内入支払つたので、

原告は、昭和三〇年九月二八日現在で、東邦通商に対し、(四)の残元本一〇〇万円、及びこれに対する次表の遅延損害金二八〇、〇五〇円の債権を有するに至つた。

表<省略>

三、岩田チヨは昭和二九年一月八日大洋セメント興業株式会社(当時の商号株式会社相互金庫、以下大洋セメントという)に、本件建物を売却し、翌九日東京法務局新宿出張所受付第一九七号を以て、その旨の所有権移転登記を経た。

四、被告を代表する関東信越国税局は、大洋セメントが被告に納付すべき、昭和二八年度源泉所得税及び源泉徴集加算税が、一五、八五八、〇九一円滞納しているとして、滞納処分として、昭和二九年六月一二日、本件建物を差押え、昭和三〇年一〇月一七日、これを公売し、訴外楠田右平次が、これを代金一五〇万円を以て、競落して、その所有権を取得したが、関東信越国税局は、その競落代金一五〇万円を、大洋セメントに対する、次の源泉所得税及び源泉徴収加算税の支払に充当した。

表<省略>

五、しかしながら、大洋セメントは、国税徴収法(以下法という)第三条にいわゆる納税人でないから、原告は前記抵当権に基き右競落代金一五〇万円の内から、前記貸金元利金合件一、二八〇、〇五〇円の弁済をうけ得べかりしものであつた。

しかるに被告が、右競落代金一五〇万円全部を、大洋セメントに対する右租税債権一五〇万円に充当して、その支払をうけたのは、法第三条の解決を誤つたものであつて、その充当は、明白かつ重大なる瑕疵を含むものと謂わなければならない。これを要するに、被告は、法律上の原因なくして、原告の損失に於て、右一、二八〇、〇五〇円の利得を為したものであるから、原告は被告に対し、右利得金及び、これに対する、本件訴状副本が被告に送達せられた日の翌日である、昭和三二年一一月二日から、支払ずみに至る迄、民法所定の年五分の遅延損害金の支払を求める為本訴請求に及んだ。

被告の(一)の抗弁については、被告の充当が、法第三条に違反して為されたものである限り、その滞納処分行為が、行政行為として有効であるか無効であるかを、先議する迄もなく、私法上不当利得を構成するものであるから、被告の主張は失当である。

(二)の抗弁につき、その主張事実中、岩田チヨ及び大洋セメントが、被告主張のような国税、地方税を滞納していたことは知らない。被告の主張は、その援用する最高裁判所の判例を曲解するものであつて、到底正論ということを得ないと述べ

証拠として、甲第一ないし第七号証第八号証の一ないし六、第九ないし第一一号証を提出し、証人田村英俊、同稲谷朝三の各証言を援用し、乙号各証の成立を認めると述べた。

被告指定代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め、原告主張の

一の事実中、昭和二八年四月三〇日、東京法務局中野出張所に於て、本件建物につき、原告主張の根抵当権設定登記がなされたことは認めるけれども、その他の事実は知らない。

二の事実は、知らない。

三の事実中、昭和二九年一月九日、本件建物につき、原告主張の所有権移転登記がなされたことは認めるけれども、その他の事実は、知らない。

四の事実は、全部これを認める。

五の主張は、これを争う。

抗弁として

(一)  滞納処分による公売代金の滞納国税への充当は、法第二八条による滞納処分の手続の一部であり、充当をしたことは、同法施行規則(以下規則という)第三〇条に基き、原則として、その都度、その処分に関する計算書を作成して、滞納者に交付することとされて居り、租税債権は、充当の範囲内で消滅する効果をもつから、充当は法第三一条の二の再調査請求の対象となる行政処分である。従つて、充当に異議ある者は、同法の規定に基き、再調査、審査を経て、抗告訴訟の手続により、その処分の取消を求めることができるに止まる。本件に於て、仮に原告が本件建物につき、その主張のような抵当債権をもつているとしても、被告の為した前記充当は、重大かつ明白な瑕疵ということができず、しかも原告が提起すべき、右充当行為に対する抗告訴訟については、その出訴期間を経過しているから、原告は最早、右充当の取消を主張し得ず、従つてそれは終始有効であつたから、被告は有効な充当行為により、前記租税債権の弁済をうけたのであり、その間不当利得の成立する余地がない。(大審院判例昭和一三年一一月二九日民事判例集一七巻二二号二二四三頁参照)。

(二)  法三条の制限の下に於て、質権抵当権の優先性を認容したのは担保権の設定者が、滞納者自身であるか、租税の納期限当時担保物件が滞納者自身の所有に属するか否かに、拘わりたい趣旨である。(大審院明治三六年六月六日判決)。

最高裁判所の昭和三二年一月一六日の判例(最高裁判所判例集一一巻一号一頁以下単に判例という)は、次のように解決すべきである。

(1)  即ち、判例は抵当権者の保護の適格を、「設定当時に於て、設定者に国税の滞納のないこと、及びその後一年設定者が国税を滞納しないこと」を条件としているのであるから、抵当権設定者が、設定当時及びその後一年以内に、国税を滞納した後、抵当不動産が設定後一年以内に、国税の滞納のある第三者に譲渡された場合には、場合によつては、法第三条の適用はなく、法第二条の適用があると解すべきである。即ち、抵当権者は、右の場合、譲渡当時迄の、譲受人の国税に対しては勿論、その後設定から一年以内の譲受人の国税に対して優先権を主張し得ない。本件に於て、抵当権設定者岩田チヨは、別表記載の通り、設定時及びその後一年以内に、六二、〇一六円の国税を滞納していたところ、抵当権設定の日たる昭和二八年四月三〇日から、一年以内である昭和二九年一月九日迄に、一五〇万円以上の国税を滞納していた譲受人大洋セメントに、本件建物を譲渡したのであるから、抵当権者である原告は、譲受人大洋セメントの租税債務につき、被告に対し法第三条による優先を主張し得ない。

(2)  仮にそうでないとすれば、抵当権者が優先権を主張し得るのは、抵当不動産の譲渡時(抵当権設定から一年以内)迄の、抵当権設定者の国税滞納額についてのみである。逆に言えば抵当権者が設定者との関係で、法第三条の要件を充さなかつたため、設定者に対し、優先権を主張し得ない額については抵当権者は、譲受人の譲受当時迄(設定後一年以内)の滞納国税に相当する額に引直した範囲内で、滞納国税に優先しない。抵当権者は、譲受人の譲受後の滞納国税については、設定者との関係で有した、法第三条の保護の資格を失う。即ち、その後は、抵当権と譲受後の譲受人の滞納国税との優劣を定めるには、抵当権者が設定者との関係で有した、法第三条の保護の資格をもち込まず、抵当権者と譲受人の滞納国税との間で、法第二、第三条を適用する。即ち、譲受人の滞納国税中、譲渡時迄の設定者の滞納国税に相当する額と、譲渡以後、抵当権設定から一年以内の、譲受人の滞納国税との合計額については、滞納国税は、抵当権に優先すると解釈すべきである(小林俊三裁判官の補足意見参照)。本件についてこれを見るに、抵当権設定者岩田チヨの抵当不動産譲渡時に於ける、設定時から一年以内に、納期の到来している滞納国税は、別表一記載の通り六二、〇一六円であり、(譲受人大洋セメントの譲受時に於ける滞納国税は、一、五〇〇万円以上に及んで居り、その内被告が国税債権の弁済に充てたのは、原告主張の昭和二八年度の源泉所得税及び源泉徴収加算税一五〇万円である。)しかるに、大洋セメントの譲受後の滞納国税は、やはり一、五〇〇万円を越えるのであるから、被告が為した前記充当は、適法である。

(3)  仮に以上の主張が容れられないとしても、地方団体は、地方税、公課の滞納の場合に、地方税法第一五条第八項によつて、国税徴収法第三条と同じく、抵当権者に優先する。岩田チヨは東京都新宿税務事務所及び新宿区役所四谷出張所に対し、別表二ないし五の地方税を滞納しているのであるから、その合計一四〇、四八〇円とその一の国税六二、〇一六円との合計額二〇二、四九六円の範囲に於て、これを譲受人大洋セメントの前記滞納国税に引直し、その限度に於て、原告は、被告に優先しないから、その部分の本訴請求は失当であると述べ、

証拠として、乙第一ないし第四号証を提出し、甲第二号証の成立を認める、その他の甲号各証の成立は、知らないと述べた。

理由

証人稲谷朝三の証言、及びその証言により真正に成立したと認める、甲第一号証同第二ないし第八号証同第一一号証の各記載、証人田村英俊の証言及びその証言により真正に成立したと認める、同第九、第一〇号証の各記載によれば、原告は昭和二八年四月二九日、東邦通商及び岩田チヨとの間に、原告主張のような根抵当権設定契約を結び、岩田チヨは東邦通商の為、本件建物につき、第一順位の根抵当権を設定したこと、原告は翌三〇日、東京法務局中野出張所受付第五八八五号を以て、その旨の根抵当権設定登記を経たこと(この点は、被告の認めるところである)。原告はその主張の日時、東邦通商に対し、原告主張のように、合計六五〇万円を貸与し、その後、原告主張の経緯を経て、昭和三〇年九月二八日現在に於て、東邦通商に対し、残元本一〇〇万円、及びこれに対する、原告主張の遅延損害金二八〇、〇五〇円の債権を有することが認められる。

岩田チヨが昭和二九年一月九日、東京法務局新宿出張所受付第一九七号を以て、大洋セメント(当時の商号株式会社相互金庫)に対し、同年同月八日付売買を原因として、本件建物の所有権移転登記を経たことは、被告の自白したところであり、その事実によれば、同年同月八日、岩田チヨ及び大洋セメントの間に、本件建物につき、売買が成立したことを推認することができる。

被告を代表する関東信越国税局が、大洋セメントの被告に納付すべき、昭和二八年度源泉所得税及び源泉徴収加算税一五、八五八、〇九一円の滞納処分として、昭和二九年六月一二日、大洋セメント所有の本件建物を差押え、昭和三〇年一〇月一七日これを公売し、楠田右平次がこれを代金一五〇万円を以て、競落して、所有権を取得したこと、関東信越国税局がその競落代金を、大洋セメントに対する昭和二八年度の源泉所得税(納期は昭和二八年一一月三〇日ないし昭和二九年二月二八日)及び源泉徴収加算税合計一五〇万円の支払に充当したことは、当事者間に争ないところである。

原告は、大洋セメントは、法第三条にいわゆる納税人でないから、被告が大洋セメントに対する、右国税債権に基き弁済に充当した代金の内、原告の前記元利金債権一、二八〇、〇五〇円に相当するものは、法第三条の解釈を誤まり、被告が不当に利得したものであると主張するに対し、被告は、右弁済充当の行為は、国家の行政処分であり、それは、原告が抗告訴訟により、その取消を求めない限り、有効であるから、被告は、法律上の原因なくして、これを利得したということを得ないと抗弁するから、この点につき判断する。

当裁判所は、被告のなした右弁済充当の行為は、被告の行政処分であることは言うを俟たないが、後段説示の理由により、被告に於て、法第三条の解釈を誤まり、前記競落代金を、先ず原告の私法上の債権の弁済に充当すべきに、これを為さず、後に充当すべき被告の国税債権に、すべて充当した点に於て、重大かつ明白な瑕疵を包合するものであり、その意味に於て、当然無効であると解釈するが故に、被告の右抗弁を採用せず、その充当行為は、抗告訴訟の手続によりその取消を待つ迄も無く、私法上不当利得が成立するという見解をとる。(この点につき、田中二郎行政法総論、法律学全集6、第二篇、第二章第六節第二款第三款、三三二頁ないし三五四頁参照。なお、独逸の司法裁判所が、公法上の争訟に対しても、出訴の可能性を拡張し、かつ私法上の争訟に際し、その附随的な統制に服する瑕疵ある行政行為を、最大限迄無効と宣言する傾向があつたことについては、カルルーヘルマン・ウレ・新行政裁判管轄及び司法と行政との関係、一四頁以下参照。)

仮に一歩を譲つて、被告の右弁済に充当の行政が重大かつ明白な瑕疵に基くものでなく、従つて行政行為として、有効であるとする解釈が成立ち得るとしても、被告が競落代金を取得すべきや否やは、実体的な徴収権の存否によつて判断すべきであつて、公売処分の完結や抗告訴訟の出訴期間の経過等は、その徴収を是認せしめる法的根拠とはなり得ない。と解する。実作法上、被告に対し、優先弁済を主張し得る者は、被告に対し、不当利得の返還を請求することは、少しも妨げられない。これ恰も強制執行に於て、実体上の請求権を失つた執行債権者が、既存の債務名義を用いて、執行債務者から弁済をうけた場合に於て、その執行行為そのものは適法であるが、執行債務者は後日、執行債権者から、その強制執行に因つて弁済をうけたものを、不当利得として、返還を請求し得るのと、論理を一にする。(この点につき、判例民事法昭和一三年度一三三事件に対する評釈、五〇九頁以下参照)。問題は、原告が被告に対し、優先し得る抵当権を有するか、有するとすれば、その範囲如何にあるものである。

被告は、その援用する最高裁判所の判例につき、前記抗弁(二)の(1) に於て、解釈を述べているが、当裁判所はその解釈は、判例の正当な解釈ということを得ないと考える。当裁判所は、右(二)の(2) の解釈をも採用せず、抵当権設定者が抵当権設定後、一年以内に国税を滞納し、一年以内に抵当不動産を第三者に譲渡した場合に於て、租税債権者が、譲受人の滞納国税地方税等について、抵当債権者に優先権を主張し得るのは、抵当権設定者(譲渡人)の一年以内の国税地方税等の滞納、及びその滞納金額を限度とするものであり、第三取得者(譲受人)の国税地方税等の納期の如何を問わないとする見解をとる。(この点につき、加藤一郎「抵当権と国税優先権」再論、ジユリスト昭和三二年九月一日号一三七号二頁以下参照)。

今本件についてこれを見るに、成立に争ない乙第一号証の記載によれば、本件建物の所有者岩田チヨが、根抵当権設定登記のなされた日から、一年後である昭和二九年四月三〇日現在に於て、被告に対して負担する滞納所得税は、本税が四七、七〇〇円、利子税が一〇、一五六円、延滞加算税が四、一六〇円合計六二、〇一六円であることが認められる。して見れば、被告が取得した前記競落代金一五〇万円は、すべて大洋セメントの前記滞納国税一五〇万円(その納期は、昭和二八年一一月三〇日から昭和二九年二月二八日迄)の弁済に充当せられたとはいえ、原告としては、若し、本件建物が、大洋セメントに譲渡せられず、岩田チヨの所有に属していたとすれば、岩田チヨの滞納国税六二、〇一六円の限度に於ては、法第三条の適用をうけ、被告に対し、その優先権を主張し得なかつた筋合である。従つて原告は、右六二、〇一六円の限度に於て、被告がこれを不当に利得したものと主張することができないけれども、その余の金額、即ち原告の前記元利金債権一、二八〇、〇五〇円から六二、〇一六円を差引いた残額一、二一八、〇三四円、及びこれに対する遅延損害金の限度に於ては、被告が原告に配当すべきものを、自己に於て、原告に先んじて配当を受け、因つて大洋セメントに対する源泉所得税及び源泉徴収加算税の弁済に充当し、これを不当に利得したということができるのであつて、被告の充当行為は、法第三条の解釈を誤まり、実体法上配当を受けるべからざるものから配当をうけたことに帰着し、重大にして明白な瑕疵に基くものといわなければならない。その行為は、既に国税を納付したものから、重ねて同一国税を徴収したものと、何等その選を異にしないのである。この点について、昭和一三年一一月一〇日大審院民事第一部が判示した見解(昭和一三年(オ)第一二〇五号大審院民事判例集一七巻二二号二一八二頁参照)は、当裁判所の採用しないところである。

被告は、岩田チヨは、別紙二ないし五の地方税合計一四〇、四八〇円を滞納しているから、原告は、その限度に於て、被告にその優先権を主張し得ないと抗弁し、同人に右の金額の地方税の滞納のあることは、成立に争のない乙第二第三号証の各記載によりこれを認め得るけれども、既に被告が大洋セメントに対して為した滞納処分が、被告の差押に始まり、弁済に充当した租税が、前段認定のように、大洋セメントの国税のみである以上、仮に、東京都新宿税務事務所及び新宿区役所四谷出張所が、右競落代金につき右地方税の交付要求を為したとしても、その徴収金は、地方税法第一五条第三項に基き被告に優先しないものである(本件に於て、右地方団体が交付要求を為した形跡は、少しも認められない)から被告は、右地方税の限度に於ては、原告の抵当権に対し、優先を主張することは、たとえ、岩田チヨの滞納国税及び地方税の合計額が、被告が大洋セメントに対して優先を主張し得る租税の滞納額につき、単に名目上のものであるにせよ、許されないといわなければならない。

若し被告の見解をとるとすれば、抵当権設定者が国税のみを滞納し、抵当不動産譲受人が地方税のみを滞納した場合に於て、地方団体が譲受人に対する地方税につき、滞納処分を為し、抵当権設定者の滞納国税の限度に於て、地方税の弁済を受け得ることを、是認しなければならないことになるのであつて、かような見解は、抵当権者の予測可能性の限界を超えて、国税又は地方税の優先権を認容するものとして、当裁判所の採らざるところである。若し納税義務者である抵当権設定者がその抵当不動産の差押を免れる為、その不動産を他に譲渡し、その譲渡が、国税徴収法第四条の七、又は地方税法第一一条の三の要件を具備する場合は、租税債権者は、当該譲受人から、滞納税を徴収し得るのである。

これを要するに、原告が被告に対し、前記一、二一八、〇三四円及びこれに対する、本件訴状副本が被告に送達せられた日の翌日であること、記録により明な、昭和三二年一一月二日から、支払ずみに至る迄、民法所定の年五分の遅延損害金の支払を求める部分の本訴請求は、正当であるからこれを認容し、その余は失当であるから、これを棄却し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第九二条但書、仮執行の宣言につき、同法第一九六条第一項を適用して、主文の通り判決する。

(裁判官 鉅鹿義明 林田益太郎 吉川清)

岩田チヨの滞納国税、地方税一覧表<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例